水俣エコ牛乳 湯野薫 

いらんことはせん もったいないこともせん
Milk as It Was Meant To Be

牛乳って、寒い地域の特産だと思っていた私は、水俣産の牛乳があることに驚いた。飲んでみた。あまくて優しかった。「水俣エコ牛乳」は、一匹のおばあちゃん牛が子どもを生んだという奇跡から始まった。公害で、もう先がないかに見えた水俣という町が、奇跡の再生を遂げるように。
作り方も売り方も、エコという新しい価値を大事にした。
(by Minamata Impact)

I thought that milk was a specialty of cold regions, so I was surprised to learn that there was milk produced in Minamata. I drank it. It was sweet and gentle. Minamata Eco-Milk” began with the miracle of an old lady cow who gave birth to a child. It was as if Minamata, a city that seemed to have no future due to pollution, had undergone a miraculous rebirth. In both the way the milk is made and the way it is sold, the new value of eco-friendliness is emphasized.
(by Minamata Impact)

以下、水俣市企画・監修「水俣堂々」より抜粋。
The following is an excerpt from “Minamata Dodo” planned and supervised by Minamata City.


未明の3時ごろ、まだ真っ暗ななか車は出発する。いまでは珍しい光景となった早朝の「牛乳配達」だ。カチカチというかすかな響きが聞こえるのはその牛乳が瓶詰めだからである。毎朝およそ300軒、水俣エコ牛乳を宅配する湯野薫は言う。環境マイスターの酪農家である。
「エコ牛乳というからには、やはり瓶詰めです」
エコはエコロジーでありエコノミー。いらんことはせん、もったいないこともせん。

みかん農家の跡取りだった父は、若いころ一念発起して牧場を始めた人だった。長男・薫は子どものころから牧場仕事を手伝ってきた。牛といっしょに成長した少年は当然の流れとして、ずっと牛とともに生きる人生を選んだ。北海道で本格的な酪農技術を学び、アメリカに渡って広大な牧場を経験し、帰国後しばらく大阪の牧場で働いたあと、水俣の地に念願の自分の牛舎を持ったのは昭和54(1979)年のこと。しかし順風満帆とはいかなかった。乳牛とともにがんばろうと張り切っていたのに、開業決心のその年に、牛乳のダブつきにより生産調整という施策が採られたのだ。新規参入などもってのほかという環境となった。

いつか乳製品をと思い暮らしたが、
「そのうち辛抱の糸も切れ、しかたないとあきらめて食肉に転じるよう気持ちを立て直したのですが」こんどは平成3(1991)年にその牛肉の輸入自由化が始まる。畜産農家、大打撃。まあ、次々となんて間がわるいことか、とわれながら呆れた。

The dairy farmer who produces Minamata Eco Milk, a designated Environmental Meister, opened his farm in 1979. However, there was trouble ahead. The very year he resolved to open for business, the government implemented a policy to regulate milk-production volume. This was not the time to be entering the dairy farm business.

が、運は尽きていなかった。およそ10年後、たまたまある牧場からお払い箱になったホルスタインを引き取る。「おばあちゃん乳牛」だった。しばらくいっしょに暮らし、すっかり情が移った。と、なんということか、そのホルスタインは妊娠していたのだ。立派な仔を出産した。当然お乳もたっぷり出る。
「これがまた、びっくり仰天のおいしさでした」
だが、商品化へのハードルは高い。ならば自家需要といこう。友だちと分け合うことにした。友だちもその美味に感激する。
そこから先は、以前の間のわるさの償いをするかのように、運のほうから擦り寄ってきた。そして水俣エコ牛乳の発進となる。

It wasn’t until the year 2000 that his luck changed. He adopted an old Holstein, a cow that had been deemed too old to produce milk by another farm. He lived with her for a while, and soon became attached to her. And unbeknownst to him, this old Holstein was pregnant. She soon gave birth to a healthy calf, and began producing lots of milk, all of very high quality. This was the starting point for Minamata Eco Milk.

よけいな薬やよけいな操作を加えないというエコロジー、ゴミは出さず牛舎も廃材使用というエコノミー、というエコに徹する。
朝の配達を終えて戻り、餌をやり、搾乳。そして二人三脚の妻が処理と瓶詰め作業。瓶は回収して再利用。牛の飼料はおから、米ぬかなどをはじめ地元の暮らしのなかの廃棄物を発酵させて使う。
夫婦二人でやれる規模、それだからこそできる目の行き届いた牧場経営をこれからも続けていく。
「ま、できないことを無理にはやりません」
それが根強いファンからの「ありのままの牛乳」という定評を生んだ。「さっぱりしてコクがある」と。
夫婦の牧場に飼われている犬は人なつっこい。鷹揚で、ゆとりたっぷり。どうやら自分が牧場主と思いこんでいるふしがある。

This farm does not use chemicals or manipulate the cows in unnatural ways, so it is Eco in an ecological sense. It is also Eco in an Economic sense, however, as the process produces minimum waste, and the cow sheds are made of recycled materials. The milk is very popular, with a simple, but full, flavor.

水俣エコ牛乳
熊本県水俣市袋3819-34
Tel 0966-62-2756

Minamata Eco Milk
Fukuro 3819-34, Minamata, Kumamoto
Tel 0966-62-2756

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